Monday, September 5, 2016

『死ぬときに後悔すること25』

 カール・ベッカー氏は著書で、世界で一番死を恐れているのが現代日本人なのではないかと示唆している。無論、戦前はそのようなことはなかった、けれども今は一番恐れているというのである。そしてその理由として、来世に対する信仰が薄くなったことと不可分ではないだろうと指摘している。

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 余談だが、面白いことに死期が迫って宗教に帰依しようとする人々の中に、医者が少なくないのである。医者は(もちろん個人差はあるが)、なかなかに業が深い仕事である。どの世界でもそうだが、偉くなるような人々は、ぱっと見「政治家」のような清濁併せ飲むというか、むしろ濁流のただ中に泳ぎ続けているような雰囲気の人も少なくない。偉いお医者さんも、極めて人間くさく、人間の持つ様々な業を体にまとっている雰囲気がある。そして一見、宗教心からほど遠いような印象がある。
そのような生臭い(失礼!)方たちが、キリスト教などの洗礼を受けることがよくある。地位がある人や、逆に犯罪を犯した人も、洗礼率が高いようだ。きっと彼らにとっては切実なのだろう。

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 正直、死を前にすれば貴賤や地位の高低等全く関係ない。それまで社会的に大成功をおさめていた立派な社長が泣き叫んだりする。逆に、普通人極まりない(ように見える)人がまったく死に臨んで動じなかったりする。

 案外、得るものが多かった人間は、失うものも多く、だから最期に何かにすがりたくなるのかもしれない。

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 とはいえ、終末期になって焦って宗教を求めても、天国や来世を得ることはできても、心の修業は成るかというと微妙かもしれない。やはり健康なうちから、もっと死生観のみならず宗教についても知り、学び、考えておくのが望ましいのではないか。


大津秀一(医師)『死ぬときに後悔すること25』
(p.p.198 - 204)